「日本のエンジニアは不足しているというけれど本当? その原因は?」
「わが社でもエンジニアが不足していて困っている、何かよい解決法はないか?」
いまこの記事を読んでいる方は、そのような疑問や悩みを持っているのではないでしょうか?
「エンジニア不足というのはウソだ」と主張する向きもありますが、実際にデータを見ると確実にエンジニアは不足しています。
2018年時点の調査で22万人、このままいけば最悪の場合は2030年時点で79万人が不足すると予想されているのです。
原因として考えられるのは以下のようなことです。
・IT市場が急成長している
・技術革新のスピードが速い
・エンジニアの高齢化が進んでいる
・IT業界の労働環境がよくない
そして、この解決のために企業がとれる対策としては、以下が挙げられます。
・エンジニアの待遇を改善する
・社内で人材を育成する
・海外人材を活用する
そこでこの記事では、エンジニア不足に悩む企業が知っておいた方が良いことを解説していきます。
まず最初に、現状を理解しましょう。
◎「エンジニア不足」の現状と将来予測
◎特に不足しているエンジニア職種
◎政府の対策
それを踏まえて、以下のことを具体的に考えていきます。
◎エンジニア不足の原因
◎エンジニア不足を解消するための対策
最後まで読めば、エンジニア不足に悩まされることもなくなるはずです。
この記事で、あなたの会社が優秀なエンジニア人材を十分に確保できるように願っています。
1.「エンジニア不足」の現状
IT業界では「エンジニア不足」という声をよく聞きます。
が、一方で「エンジニア不足というのはウソ、実際は供給過多だ」という人もいます。
一体、本当のところはどうなのでしょうか?
まずはその現状を見つめなおしてみましょう。
1-1.エンジニアは本当に不足している
結論から言えば、「エンジニア不足」はたしかに事実です。
2019年に発表された「IT人材需給に関する調査」(経済産業省・みずほ情報総研株式会社)によると、2018年時点でのIT人材の需要と供給の差は22万人でした。
つまり、22万人ものエンジニアが不足していたわけです。
またこの調査では、IT人材を「従来型IT人材」と、AI やビッグデータ、IoTなどを利用した新しいビジネスで、生産性向上などに寄与できる「先端IT人材」とに区別しています。
それぞれの不足数の内訳は、2018年時点では以下のようになっていました。
・従来型IT人材の不足数:20万人弱
・先端IT人材の不足数:2万人余り
1-2.将来的にはさらに不足する
しかも「IT人材需給に関する調査」によると、この需要と供給のギャップは年々増え続けると予想されます。
どの程度不足するかは、今後の「IT需要の伸び」と「生産性の上昇」に左右されますが、この調査では、まずIT需要の伸びを以下のように「低位」「中位」「高位」の3段階に仮定しました。
出典:「IT人材需給に関する調査」(経済産業省・みずほ情報総研株式会社)
また、生産性の上昇は、以下の2つのパターンで想定しています。
・生産性上昇率 0.7%:2010 年以降の我が国の情報通信業の労働生産性の上昇率の平均値
・生産性上昇率 2.4%:1995 年以降の我が国の情報通信業の労働生産性の上昇率の平均値
その結果、以下のように試算されました。
出典:「IT人材需給に関する調査」(経済産業省・みずほ情報総研株式会社)
もし生産性上昇率を2.4%に伸ばすことができ、IT需要の伸びが低位の1%に留まった場合であれば、2030年には人材不足は解消され、むしろ7.2万人の余剰が出る予測です。
が、それ以外のパターンでは、いずれにしろ今後も人材不足は解消されません。
それどころか、生産性の上昇が0.7%、IT需要の伸びが3~9%の高位という最悪のケースでは、2030年には78万7千人もの人材が不足する恐れがあるのです。
1-3.ただし足りないのは「先端IT従事者」
ただ、人材を「従来型IT人材」と「先端IT人材」に分けてみると、今後特に不足が予想されるのは後者です。
前述したように2018年時点では、従来型IT人材の不足数は20万人弱、先端IT人材の不足数は2万人余りと、従来型が圧倒的に不足していました。
が、「IT人材需給に関する調査」では、「IT需要の伸び:低位、生産性上昇率:0.7%」だった場合のそれぞれの不足数の推移を以下のように予測しています。
※従来型IT人材から先端IT人材へとスキル転換する人の割合「Reスキル率」を1.0%と仮定
出典:「IT人材需給に関する調査」(経済産業省・みずほ情報総研株式会社)
これを見ると、従来型IT人材は2024年から余り始め、先端IT人材の不足数はどんどん大きくなっていきます。
試算の条件である「IT需要の伸び」「生産性上昇率」「Reスキル率」の設定によって、不足数の予測値は異なりますが、いずれにしろ年々「先端IT従事者」のニーズが高まり、需要と供給のギャップが広がっていくことが予想されるのです。
1-4.特にエンジニアが不足している分野・職種
では、実際にエンジニアが不足しているのは、どのような分野・職種でしょうか?
1-4-1.人材不足のIT分野
まず、IT分野でいえば、前出の「IT人材需給に関する調査」(経済産業省・みずほ情報総研株式会社)のデータからわかるように、先端技術領域の人材不足が懸念されています。
この調査では、「先端IT人材」を「AI やビッグデータ、IoT 等、第4次産業革命に対応した新しいビジネスの担い手として、付加価値の創出や革新的な効率化等により生産性向上等に寄与できるIT人材」と定義しています。
つまり、AI、ビッグデータ、IoTの領域で、エンジニアが不足するというわけです。
このほかにも、先端技術領域としては以下のような分野が挙げられますので、これらに関しても同様でしょう。
・DX(デジタルトランスフォーメーション)
・AR、VR
・ロボット など
1-4-2.人材不足の職種
次に、IT分野で不足している職種は何でしょうか?
それは、高度なスキルが必要な職種や、ビジネスやマネジメントの知見が求められる職種です。
以下は、独立行政法人情報処理推進機構 (IPA)による「DX白書2021」から「デジタル事業に対応する人材の「量」の確保状況」のデータです。
【「デジタル事業に対応する人材の「量」の確保状況」】
出典:「DX白書2021 日米比較調査にみるDXの戦略、人材、技術」
(独立行政法人情報処理推進機構 (IPA))から抜粋
これによると、主に不足しているのは以下の職種が挙げられます。
・プロダクトマネージャー(PdM):製品管理の最終責任者として、製品開発からマーケティング戦略など全体をとりまとめ、顧客満足度と利益を上げる
・ビジネスデザイナー:市場のニーズに合わせてデジタルビジネスやサービスを企画、立案、構築する
・データサイエンティスト:企業が抱える課題に対して、ビッグデータを分析することで解決策を見つけ出し、改善点や新ビジネスを提案する
いずれも共通するのは、ITスキルだけでなくビジネス視点、マーケティング視点でのマネジメント力が必要だという点です。
このような人材は、まだ日本では需要に育成が追い付いていないのが現状です。
1-5.政府も対策に力を入れている
以上のように、エンジニア不足は現在の課題であるだけでなく、今後ますます深刻化していく恐れがあります。
そのため、政府も対策に乗り出しました。
たとえば、以下のような政策、制度などが実施されています。
政策・制度 | 管轄省庁 | 内容 |
実践的なAI人材育成 | 経済産業省 | 課題解決型AI人材育成プログラム「AI Quest」の実施 |
ハイレベル若手IT人材の発掘&育成 | 経済産業省 | ・セキュリティ・キャンプ:22歳以下の若者を対象にした、情報セキュリティに関する合宿形式の講習会 ・未踏IT人材発掘・育成事業:ITを駆使してイノベーションを創出することのできる独創的なアイディアと技術を持つ人材を発掘・育成する事業 |
教育訓練給付制度 | 厚生労働省 | 働く人の能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と就職の促進を図るため、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給される制度 情報関係の資格では、特に「第四次産業革命スキル習得講座」(新技術・システム(クラウド、IoT、AI、データサイエンス)、高度技術(ネットワーク、セキュリティ)など)などが対象 |
国際面での取組 | 経済産業省 | ・アジアにおけるIT人材育成支援 など |
現在IT業界に従事しているエンジニアのスキルアップや、より高度な職種への転換を支援するとともに、若者や外国人などをあらかじめハイレベルなIT人材として育成することで、今後来るべき「先端IT人材」不足への対応を目指しているのです。
2.エンジニア不足の原因
エンジニア不足の現状がわかりました。
が、そもそもなぜエンジニアは不足しているのでしょうか?
その原因を知らなければ、問題を根本的に解決することはできません。
そこでこの章では、エンジニア不足の原因として考えられることを挙げていきましょう。
2-1.IT市場が急成長している
まず第一に挙げられる原因は、IT市場の急成長・急拡大です。
以下のグラフは、総務省「ICTの経済分析に関する調査」(2021年)による、「日本の情報通信産業 実質GDPの推移」と「日本の情報通信産業の雇用者数の推移」です。
情報通信産業全体の統計ですので「放送業」などIT産業からは外れた分野も含まれていますが、それはわずかです。
ほとんどがIT産業またはIT関連産業のデータですので、このグラフ全体の推移を見ればIT市場の拡大がわかるでしょう。
そこで、ふたつのグラフを比較すると、実質GDPは増加しているのに対して雇用者数が減少傾向で、市場の成長に人材供給が追い付いていないことがわかります。
【日本の情報通信産業 実質GDPの推移】
【日本の情報通信産業の雇用者数の推移】
出典:総務省「ICTの経済分析に関する調査」(2021年)
特に、 DX(デジタルトランスフォーメーション)戦略に取り組む企業が増え、さまざまなビジネスでIT化、デジタル化が進んでいることが、さらにエンジニア不足を加速させています。
2-2.技術革新のスピードが速い
IT市場の拡大と並行して、技術革新がハイスピードで進んでいることも、エンジニア不足につながる大きな要因と言えます。
IT技術は日進月歩で、数年前に学んだことが現在では時代遅れで使われなくなっている、ということもしばしばです。
代表的なのはプログラミング言語です。
流行り廃りが激しく、たとえば2010年ごろに人気だったPHPは現在は需要が下降気味で、現在はPythonが一番人気です。
Pythonの登場で、Perlなども使われなくなってきています。
そのため、エンジニアはつねに新しい技術を学び続けなければなりませんが、人手不足による多忙で学びの時間が満足にとれない人も多いでしょう。
その結果、技術の進歩に追いつくことができないエンジニアが増え、「企業が求めるスキルを持った人材が足りない」という意味でのエンジニア不足が発生するのです。
特に今後は、AIやロボット、クラウドなどの先端領域に高いスキルを持ったエンジニアが求められるため、それらの分野でのエンジニア不足が懸念されています。
2-3.エンジニアの高齢化が進んでいる
3つ目の原因として、エンジニアの高齢化があります。
以下のグラフは、前述の経済産業省「IT人材需給に関する調査」から、「IT人材の年齢分布の推移」です。
【IT人材の年齢分布の推移】
出典:「IT人材需給に関する調査」(経済産業省・みずほ情報総研株式会社)
2010年から2030年までの推移(2020年以降は試算による予測)を見ると、50歳以上の人が年々増加しているのがわかります。
反対に、35~49歳のミドル層は減少傾向です。
高齢のエンジニアは定年退職などで現場を離れてしまいますが、それに対して新卒でエンジニアになる人は、以下のグラフのようにあまり増えないと予想されています。
【「情報処理・通信技術者」としての就職者数及び IT人材としての就職割合】
出典:「IT人材需給に関する調査」(経済産業省・みずほ情報総研株式会社)
このギャップは、少子高齢化の影響もあって埋めにくく、エンジニア不足につながっています。
2-4.T業界の労働環境がよくない
また、IT業界の労働環境に対してよくないイメージが横行していることも一因でしょう。
以前はIT企業といえば、今後の成長が約束された業界として人気を集めた時期がありました。
が、その後、「仕事がキツい」「納期がタイトで残業・休日出勤当たり前」「クライアントの要求に振り回されて、何度も修正させられる」といった現場のエンジニアの声がネットなどを通じて広まり、華やかなイメージから一転して「キツい・厳しい・帰れない」というネガティブなイメージをもたれるようになってしまいました。
そのため、エンジニアという職種自体が敬遠され、人が集まらなくなってしまったと考えられるのです。
ただ、このままでは悪循環でますます優秀な人材を遠ざけてしまうため、労働環境の改善に取り組む企業も増えています。
今後はこの問題も解決に向かうことが期待されるでしょう。
3.エンジニア不足を解消するための対策
このように、エンジニア不足にはさまざまな原因があることがわかりました。
中には少子高齢化のように、国の対策を待つしかない問題もありますが、多くの課題は企業の努力で解決可能です。
そこで、エンジニア不足解消のために、企業側ではどのような対策をとっていくかを考えてみましょう。
3-1.エンジニアの待遇を改善する
まず第一に取り組みたいのは、エンジニアの待遇改善でしょう。
ひとつには、労働環境や就労条件を適切に整えること、もうひとつは給与の見直しです。
3-1-1.労働環境・就労条件を整える
過度な残業や休日出勤が発生している場合は、業務の効率化や人員配置の最適化などを行って改善しましょう。
また、福利厚生を充実させることも、社員のモチベーションアップや求職者の引き付けに有効です。
3-1-2.給与の見直し
給与に関しては、まず人事評価の基準や制度を見直す必要があるでしょう。
評価基準を明示し、スキルや成果が上がれば給与に適切に反映されるように評価制度を整えます。
ポイントは、評価基準の明確化と納得感です。
人事評価は、誰がどのような基準で判断を下しているのかが被雇用者側からはわからない、いわゆるブラックボックス化しているケースがよくあります。
そのような場合は被雇用者側に「自分はもっと評価されてしかるべき」「なぜ評価されないんだ」と不満がたまって離職につながる恐れがあります。
そこで誰にでもわかりやすい評価基準を作って公開し、被雇用者が自分の評価に納得感をもてるようにしましょう。
3-2.社内で人材を育成する
現状、多くの企業ではエンジニアを採用する際に、情報系や工学系の学部出身者や、すでにスキルと経験のある転職者を中心に探しているようです。
が、そのようなITリテラシーの高い人材だけにフォーカスしていると、エンジニア不足は解消されません。
そこで、学歴や経験よりも潜在的な能力や人柄などに着目したポテンシャル採用も行って、自社内で先端IT人材として育成する体制も整えましょう。
文系の人材や別業種からの転職者などを積極的に受け入れ、社内で教育研修を行ったり、社外のIT講座やスクールに通う場合は補助制度を設けたり、資格手当てをつけたりすることで、自社プロパーの優秀なエンジニアを確保できるようになるはずです。
3-3.海外人材を活用する
また、海外人材を活用する動きも広がってきました。
経済産業省では、優秀な「高度外国人材」を我が国に呼び込み定着させるために、さまざまな取り組みを行っています。
たとえば以下のようなものが挙げられます。
◎高度外国人材の受け入れの促進
→高度外国人材のための新たな在留資格「高度専門職第1号」「高度専門職第2号」を創設、在留期間を無期限にし、活動の制限を大幅に緩和するなど
◎留学生などの国内就職促進、就職後の活躍促進
→「高度外国人材活躍推進プラットフォーム」を設置して、採用から定着までを支援するなど
◎教育プログラムの充実
→大学と企業が連携して留学生の国内就職促進のための教育プログラムを推進するなど
企業側もこれらの制度や施策をよく知り活用して、優秀な海外人材を採用・活用していくとよいでしょう。
特に近年では、インドやベトナムといったアジア圏の国々が、IT教育に力を入れて優秀な人材を多く輩出していますので、注目してみてください。
4.まとめ
いかがでしたか?
エンジニア不足について知りたいことがわかったかと思います。
ではあらためて、記事の要点をまとめましょう。
◎日本のエンジニアは不足していて、2030年には最大で79万人の需給ギャップが予想されている
◎エンジニア不足の原因として考えられるのは、
・IT市場が急成長している
・技術革新のスピードが速い
・エンジニアの高齢化が進んでいる
・IT業界の労働環境がよくない
◎エンジニア不足を解消するために企業がとれる対策は、
・エンジニアの待遇を改善する
・社内で人材を育成する
・海外人材を活用する
以上を踏まえて、あなたの会社が欲しい人材を十分に確保できるよう願っています。