「ラボ型オフショア開発とはどんなもの?」
「コストやクオリティ面でラボ型オフショア開発をすすめられたが、どこの国に委託すべき?」
ソフトウエア開発を検討していて、そのような疑問や悩みをもっている企業も多いでしょう。
「ラボ型オフショア開発」とは、「海外に専属のエンジニアチームを一定期間にわたって確保し、開発を行う方法」です。
「ラボ型」は、従来の案件ごとに契約を結んで完成品を納品してもらう「請負型」とは異なり、契約期間中であればさまざまな案件を発注することができ、改修などがあっても追加費用が発生しません。
「オフショア開発」は、日本国内での開発=「オンショア開発」と比較して人件費が低く抑えられることから、開発コストの削減のために利用される方法です。
この2つの利点をあわせて得られるのが、ラボ型オフショア開発というわけです。
そこでこの記事では、ラボ型オフショア開発を検討する企業が知っておくべきことをまとめました。
まず最初に、ラボ型オフショア開発とはどんなものかをあらためて確認しましょう。
◎「ラボ型オフショア開発」とは
◎ラボ型の契約形態
◎「請負型」との違い
その上で、実際に委託するに際して必要な知識を説明します。
◎ラボ型オフショア開発の流れ
◎ラボ型オフショア開発の委託先・国別の特徴
◎ラボ型オフショア開発のメリット・デメリット
◎ラボ型オフショア開発に向いている案件
◎ラボ型オフショア開発を依頼する際の注意点
最後まで読めば、知りたいことがわかるはずです。
この記事で、あなたの会社がラボ型オフショア開発を成功させられるよう願っています。
1.「ラボ型」オフショア開発とは
![](https://www.galk-jp.com/wp-content/uploads/2024/01/What-is-22lab-type22-offshore-development.jpg)
海外でソフトウエア開発を行うオフショア開発には、大きく分けて「ラボ型」と「請負型(受託型)」の2タイプがあります。
従来は「請負型」が中心でしたが、近年人気が高まっているのは「ラボ型」です。
そこでまず、「ラボ型」とは何かをあらためて説明します。
1-1.「ラボ型」とは?
「ラボ型」とは、専属のエンジニアチームを一定期間にわたって社外に確保し、開発を行う方法です。
国内でも海外でも行われますが、「ラボ型オフショア開発」であれば当然海外に委託することになります。
イメージとしては、「自社の開発チームを海外にもつ」と捉えればいいでしょう。
一般的には、オフショア開発を請け負う企業に委託して先方でチームを組んでもらい、日本と現地とのパイプ役となるブリッジSEやプロジェクトマネージャー(PM)を間に立てます。
その体制には、以下の2種類があります。
1)日本側のPMが現地に赴いてチームを取りまとめる
2)日本にはPM、現地には委託先のブリッジSEを立てて、両者がやりとりする
1)の方法はより管理が行き届きますが、PMが現地に渡航・滞在する分のコストがかかります。
一方2)は、現地のブリッジSEに対して語学力やマネジメント力が求められます。
予算や開発内容などにあわせて、いずれかを選択することになるでしょう。
1-2.ラボ型の契約形態
「ラボ型」の開発を委託する場合、契約形態は「準委任契約」(民法第656条)になります。
これは、「契約期間中に、決められた業務を行うこと」のみを約するもので、「プロダクトを完成させること」と「プロダクトのクオリティ」には責任を負いません。
(ただし、契約書に完成責任や補償条項を盛り込んだ場合はそれに従います。)
オフショア開発の場合、一般的にはオフショア開発会社と「エンジニア単価✕人数✕期間」に対して契約を結びます。
先方でブリッジSEやPMを立てる場合は、その人件費も加算されます。
1-3.「請負型」との違い
前述したように、ラボ型に対して「請負型」の開発形態もあります。
これは、基本的には案件1件に対して契約を結び、「決められた納期までに完成品を納品する」ことを約束するものです。
両者の違いを表にまとめましたので、以下を見てください。
ラボ型開発 | 請負型開発 | |
契約形態 | 準委任契約(民法第656条) | 請負契約(民法第632条) |
契約期間 | 3か月、6か月、1年など中長期 | 短期(納期によって定める) |
責任範囲 | 契約期間中、決められた人員を確保、稼働させる →基本的には、決められた作業のみ行う 仕事の完成や成果物に対しては責任なし | 契約期間内に仕事を完成、成果物を納品する |
開発体制 | ウォーターフォール型 アジャイル型 | 主にウォーターフォール型 |
開発モデル | 依頼元と依頼先で決める | 開発者が決める |
メリット | ・長期間、優秀なエンジニアチームを確保できる ・開発コストを抑えられる ・仕様変更や習性が柔軟にできる (依頼時には仕様が決まっていなくてもよい) ・開発ノウハウの蓄積ができる ・コミュニケーションが円滑にとれる | ・成果物を完成して納品してもらえる ・案件1件ごとの契約なので、開発コストが把握しやすい |
デメリット | ・準備期間が必要になる ・発注が少ないとコストパフォーマンスが低くなる ・発注元のマネジメント負荷が重くなる | ・依頼時に、要件定義書や仕様書が必要 ・仕様の変更や修正には追加費用が発生する可能性がある ・案件ごとの契約で、完成したらプロジェクトは解散するため、開発ノウハウが蓄積されにくい |
向いているケース | ・定期的に発注する案件がある ・仕様変更が予想される、あるいは仕様が決まっていない ・既存のアプリやサービスの運用、改修 ・アジャイル型開発 | ・要件、仕様が決まっている ・単発の案件のみ外注したい |
2.ラボ型オフショア開発の流れ
![](https://www.galk-jp.com/wp-content/uploads/2024/01/Lab-type-offshore-development-flow.jpg)
では、実際にサボ型オフショア開発を行う場合は、どのような流れになるでしょうか?
一般的には、以下の5ステップで行います。
1)オフショア開発会社の選定
2)委託内容をヒアリング
3)スタッフ人選
4)契約
5)ラボ立ち上げ・開発スタート
2-1.オフショア開発会社の選定
オフショア開発の場合、まずどこの国に開発を委託するかを決めて、その国で開発を行っている企業を選ぶ必要があります。
オフショア開発会社の中には、複数の国に対応しているところもありますが、多くは1国に特化しています。
たとえば、ベトナムに委託したい場合はベトナムで開発を行っている開発会社を探さなければならないわけです。
また、最近では多くのオフショア開発会社がラボ型開発に対応していますが、念のために事前に確認しましょう。
2-2.委託内容をヒアリング・見積もり
開発会社が見つかったら、まずは問い合わせをしましょう。
先方から委託したい案件の内容をヒアリングされますので、くわしく伝えてください。
さらにこちらからも、その案件に対応することができるか、どのように開発が行われるか、費用はどの程度かなど、知りたいことを確認します。
そのヒアリングの結果を受けて、開発会社がスタッフの人数と費用の見積もりを出します。
2-3.スタッフ人選
開発会社が案件の内容を把握すると、現地スタッフの中から適した人材をピックアップしてくれます。
この際に、開発会社によっては委託元と現地スタッフのリモート面談を実施しているところもあります。
ラボ型開発は、中長期間にわたって同じスタッフで作業を進めるため、エンジニアの人選が開発の成果を左右します。
もちろん、こちらが希望すれば途中でエンジニアを入れ替えることはできますが、そうでない限り、契約期間中はスタッフは固定されます。
大切な案件を任せることができるスタッフかどうか、エンジニアのスキルや人柄などを見極めましょう。
2-4.契約
見積もりとスタッフの人選に合意ができたら、次は正式に契約です。
ラボ型契約の場合は、「エンジニアの人数✕期間」で契約を結びます。
契約の際に注意が必要なのは、ラボ型契約の場合、開発会社には「完成責任」と「瑕疵担保責任」がないということです。
「瑕疵担保責任」とは、もし成果物に不具合があったり、クオリティが期待より低かったりした場合、開発会社側がそれを補償する義務があるということです。
もし、これらの責任を開発会社に負ってほしければ、それを契約書に盛り込めるよう、先方と調整しなければなりません。
あるいは、開発会社の中には自ら「完成保証」「瑕疵補償」をつけたラボ型開発を請け負っているところもありますので、そういう企業を選んで契約するのもいいでしょう。
2-5.ラボ立ち上げ・開発スタート
契約を交わせば、いよいよラボが立ち上がり、開発がスタートします。
ラボ型開発は前述のように「エンジニアの人数✕期間」の契約ですので、期間中であれば何件の案件を委託してもかまいませんし、修正が発生しても追加費用は基本的にかかりません。
逆に、発注する案件がない空白期間ができてしまっても、その期間分も費用に含まれます。
なるべく途切れることなく継続的に発注することで、ラボを最大限に活用できるでしょう。
3.ラボ型オフショア開発の委託先・国別の特徴
![](https://www.galk-jp.com/wp-content/uploads/2024/01/Lab-type-offshore-development-contractors-country-specific-characteristics.jpg)
さて、前章の「 2-1.オフショア開発会社の選定」で、ラボ型オフショア開発では委託先の国選びが重要だと指摘しました。
では、ラボ型オフショア開発を受け入れている国々には、それぞれどのような特徴があるのでしょうか?
主な国を一覧表にまとめてみました。
国 | 言語 | 人月単価の相場 | 特徴 | ITスキルの平均レベル |
インド | ヒンディー語など、英語 | 30万~60万円 | ・エンジニアのスキルが高い ・組み込み系の開発が得意 | 3.9 |
ベトナム | ベトナム語 ※英語、日本語も通じる場合あり | 25万~40万円 | ・近年最もオフショア開発の人気が高い ・スマホアプリなど小中規模の開発が得意 | 3.31 |
中国 | 中国語、英語 ※日本語も比較的通じやすい | 35万~55万円 | ・日本とのオフショア開発の経験が豊富 ・基幹系、情報系システムの開発が得意 | 3.58 |
インドネシア | インドネシア語 ※英語も比較的通じやすい | 24万~32万円 | ・スマホアプリの開発が得意 ・広いジャンルの案件に対応できる | 3.43 |
フィリピン | フィリピン語、英語 | 21万~30万円 | ・デザイン力に優れる ・スマホアプリ、ソーシャルゲームなどの開発が得意 | ── |
※ITスキルの平均レベルは、経済産業省「IT人材に関する各国比較調査 結果報告書」(2016年)より引用
調査各国のアンケート回答者のITスキルを以下の7段階にレベル分けした平均値
【レベル1】 最低限求められる基礎知識を有している人材
【レベル2】 基本的知識・技能を有している人材
【レベル3】 応用的知識・技能を有している人材
【レベル4】 高度な知識・技能を有している人材
【レベル5】 企業内のハイエンドプレーヤー
【レベル6】 国内のハイエンドプレーヤー
【レベル7】 国内のハイエンドプレーヤーかつ世界で通用するプレーヤー
これを参考に、開発内容や予算などを考慮して委託先を選んでください。
4.ラボ型オフショア開発のメリット・デメリット
![](https://www.galk-jp.com/wp-content/uploads/2024/01/Advantages-and-disadvantages-of-lab-type-offshore-development.jpg)
ところで、ラボ型オフショア開発にはさまざまなメリットがありますが、一方でデメリットもあります。
その主なものを挙げてみましょう。
【メリット】
・長期間、優秀なエンジニアチームを確保できる
・開発コストを抑えられる
・仕様変更や修正が柔軟にできる
・開発ノウハウの蓄積ができる
・コミュニケーションが円滑にとれる
【デメリット】
・準備期間が必要になる
・発注が少ないとコストパフォーマンスが低くなる
・発注元のマネジメント負荷が重くなる
これについては、くわしくは別記事「ラボ型開発とは?メリット・デメリット、請負型との違いなど徹底解説」に説明してありますので、ぜひそちらを参照してください。
5.ラボ型オフショア開発に向いている案件
ここまで、ラボ型オフショア開発についていろいろな視点から解説してきました。
が、そもそもどのような場合に、ラボ型オフショア開発を選択すればよいのでしょうか?
向いている案件について、考えてみましょう。
5-1.既存のアプリ・サービスの運用、改修
まず、すでにリリースされているアプリやサービスの運用と、それにともなう改修作業はラボ型オフショア開発に適しています。
長期間同じアプリ・サービスに携わるため、メンバーが固定されている方がノウハウの蓄積ができて有利でしょう。
また、アップデートや改修、不具合の解消などが発生しても、ラボ型開発であれば契約期間中は追加費用なく作業してもらえます。
さらに、これらの作業はかならず必要なものですが、日本国内で委託するよりオフショアの方がコストを抑えられるという利点もあります。
ラボ型オフショア開発のメリットがもっとも発揮されるのが、このケースだと言えるでしょう。
5-2.アジャイル型開発
また、最近導入例が増えている「アジャイル型開発」を行う場合も、ラボ型オフショア開発は最適です。
従来の「ウォーターフォール型開発」では、最初に要件定義や仕様を決め込んで開発を進め、すべて完成してからリリースします。
が、アジャイル型は、要件や仕様はアバウトなままで開発をスタートし、短期間で設計→リリース→テストを繰り返しながら、改修、改善を進めていきます。
ウォーターフォール型に比べてスピーディなリリースが可能なのが利点です。
ただ、アジャイル型開発を請負型で委託すると、毎回契約を結びなおしたり、追加費用が発生する恐れがあります。
ラボ型であれば、契約期間中に何回改修をしても、契約時の費用の範囲内で済むわけです。
![](https://www.galk-jp.com/wp-content/uploads/2024/01/Agile-development-1024x576.png)
6.ラボ型オフショア開発を依頼する際の注意点
![](https://www.galk-jp.com/wp-content/uploads/2024/01/Precautions-when-requesting-lab-type-offshore-development.jpg)
ここまで読んで、「ぜひラボ型オフショア開発を利用したい」と考えた方も多いでしょう。
ただ、実際にオフショア開発会社に依頼する際には、いくつか注意しなければならないことがあります。
最後にそれを挙げておきましょう。
6-1.開発会社の過去の実績を確認する
まず、開発会社を選ぶ際には、過去にどんなラボがオフショア開発をしたかという実績を確認する必要があります。
自社の案件と同じタイプの開発実績があれば、安心して任せられるでしょう。
が、中には実績が浅い企業や、実績を示せない企業もあります。
そのような開発会社は、できれば避けたほうがよいでしょう。
6-2.コミュニケーション体制が整っている開発会社を選ぶ
海外で行われるオフショア開発では、言葉の壁や文化の違いなどが障害になって、作業が滞るリスクがつきものです。
さらにラボ型であればメンバーが固定されるため、早期に意思の疎通をはからなければなりません。
それには、開発会社側のコミュニケーション体制が重要です。
日本語力が高いスタッフをアサインする、時差に関わらず連絡が取れるようにする、こまめに報告を上げるなど、コミュニケーションに注力している企業を選びましょう。
まとめ
いかがでしたか?
ラボ型オフショア開発について、よく理解できたかと思います。
では最後に、記事の要点をまとめてみましょう。
◎ラボ型オフショア開発とは「海外に専属のエンジニアチームを一定期間にわたって確保し、開発を行う方法」
◎ラボ型契約は「準委任契約」で、完成責任や瑕疵担保責任はない
◎ラボ型オフショア開発の流れは、
1)オフショア開発会社の選定
2)委託内容をヒアリング
3)スタッフ人選
4)契約
5)ラボ立ち上げ・開発スタート
◎ラボ型オフショア開発が向いているのは、
・既存のアプリやサービスの運用、改修
・アジャイル型開発
以上を踏まえて、あなたの会社がラボ型オフショア開発を成功させられるよう願っています。