「オフショア開発をしたいが、委託先としてベトナムはどうだろう?」
「ベトナムでのオフショア開発が人気のようだが、どんな利点がある?」
オフショア開発を検討中の企業には、そのような疑問を持っている方もいることでしょう。
ベトナムは、現在日本からのオフショア開発先としてもっとも選ばれている国です。
その理由としては、以下のようなメリットが挙げられます。
・技術と費用のバランスがとれている
・優秀なIT人材が豊富
・法人所得税減免などの制度的支援が受けられる
・日本人との相性が良い
・時差が少ない
・カントリーリスクが低い
ただ、デメリットはゼロではなく、以下の点には注意が必要です。
・日本とのオフショア開発の歴史が浅い
・東南アジアでは費用が比較的高くなりつつある
そこでこの記事では、ベトナムでのオフショア開発に関して知っておくべきことを網羅しました。
まず最初に、現状や特徴について知っておきましょう。
◎ベトナムでのオフショア開発の現状
◎ベトナムでのオフショア開発の特徴
◎ベトナムでのオフショア開発のメリット
◎ベトナムでのオフショア開発のデメリット
そして、これらを踏まえて実際にオフショア開発を委託するために必要な情報をお伝えします。
◎ベトナムでのオフショア開発の費用目安
◎ベトナムにオフショア開発を委託する手順
最後まで読めば、知りたいことがわかるはずです。
この記事で、あなたの会社がベトナムでオフショア開発を成功させられるよう願っています。
1.ベトナムでのオフショア開発の現状
近年、日本からのオフショア開発ではベトナムに人気が集中しています。
その現状と、なぜベトナムが注目されているのかについて、あらためて考察してみましょう。
1-1.近年のオフショア開発ではベトナム人気が高まっている
ベトナムは、日本からのオフショア開発の委託先として一番人気の国です。
以下のグラフを見てください。
これは、日本最大級のオフショア開発の選定先支援サイト「オフショア開発.com」が発表した「オフショア開発白書 2021年版」のデータです。
同サイトを利用した企業のうち、なんと半数以上にあたる52%がベトナムを委託先に選んでいたそうです。
出典:株式会社Resorz「オフショア開発白書 2021年版」
これは、特定のサービス利用者に限った統計ですが、一説にはオフショア開発全体の8割をベトナムが占めるとも言われています。
その理由は、ベトナムがIT教育に力を入れていて優秀なエンジニアを算出していることや、人件費が安いことなどさまざまです。
これについては「3. ベトナムでのオフショア開発のメリット」でくわしく考察しますので、そちらを参照してください。
1-2.ベトナム政府もIT人材の育成に注力
ベトナムでは、政府もIT人材の育成に力を入れています。
早期から「2020年までにIT人材を100万人に増加する」という目標を掲げて、以下のような政策を展開してきました。
・大学でのIT関連学科の開設
・IT系専門学校、職業訓練校でのIT関連コース開設
・小学校からのSTEM教育(科学、技術、工学、数学)の推進 など
その結果、優秀な人材を多数輩出することに成功しています。
ベトナムIT専門リクルートプラットフォーム・TOP Devが発表した「Vietnam IT Landscape 2020 | Vietnam IT Market Report Q2/2020 By TopDev(ベトナムIT市場レポート2020年第2四半期)」によると、ベトナムのエンジニア数は40万人、IT系教育機関の卒業生は毎年5万人となっています。
「100万人」の目標は未達成ですが、それに向けて今後も増加が期待されるでしょう。
2.ベトナムでのオフショア開発の特徴
では、ベトナムでのオフショア開発には、どんな特徴があるのでしょうか?
他国と比較して見てみましょう。
2-1.特徴
前述したように、ベトナムは日本からのオフショア開発委託が非常に多く、日本企業との協業経験が豊富です。
そのためスムーズに仕事がしやすいのが利点と言えます。
一般的には、スマホアプリやWEBサイト構築などの小~中規模の開発を得意とする業者が多いようですが、オフショア会社によって得意分野が多彩なので、大型案件なども請け負えるところが見つかるでしょう。
エンジニア人材は、ベトナム国内でも不足気味ではありますが、日本ほど深刻な状況ではありません。
特に、先端技術領域の高度なスキルを持った優秀な人材も多いのが特徴です。
というのも、小学校から理系のSTEM教育、プログラミング教育を受けていて、ITリテラシーが高いからです。
そして、その高い技術力に対して、人件費などの開発費用は今のところ低く抑えられています。
ただ、ベトナム国内でIT産業が急成長していることや、海外からの案件受注が増加していることなどから、コストは年々上がりつつあるのが現状です。
2-2.他国との比較
では、ベトナムでのオフショア開発を他国と比較するとどうでしょうか?
コストや特徴、スキルなどを表にまとめてみましたので、委託先の国を選ぶ際には参考にしてください。
国 | 言語 | 人月単価の相場 | 特徴 | ITスキルの 平均レベル |
ベトナム | ベトナム語 ※英語、日本語も通じる場合あり | 25万~40万円 | ・近年最もオフショア開発の人気が高い ・スマホアプリなど小中規模の開発が得意 | 3.31 |
インド | ヒンディー語など、英語 | 30万~60万円 | ・エンジニアのスキルが高い ・組み込み系の開発が得意 | 3.9 |
中国 | 中国語、英語 ※日本語も比較的通じやすい | 35万~55万円 | ・日本とのオフショア開発の経験が豊富 ・基幹系、情報系システムの開発が得意 | 3.58 |
インドネシア | インドネシア語 ※英語も比較的通じやすい | 24万~32万円 | ・スマホアプリの開発が得意 ・広いジャンルの案件に対応できる | 3.43 |
フィリピン | フィリピン語、英語 | 21万~30万円 | ・デザイン力に優れる ・スマホアプリ、ソーシャルゲームなどの開発が得意 | ── |
※ITスキルの平均レベルは、経済産業省「IT人材に関する各国比較調査 結果報告書」(2016年)より引用
調査各国のアンケート回答者のITスキルを以下の7段階にレベル分けした平均値
【レベル1】 最低限求められる基礎知識を有している人材
【レベル2】 基本的知識・技能を有している人材
【レベル3】 応用的知識・技能を有している人材
【レベル4】 高度な知識・技能を有している人材
【レベル5】 企業内のハイエンドプレーヤー
【レベル6】 国内のハイエンドプレーヤー
【レベル7】 国内のハイエンドプレーヤーかつ世界で通用するプレーヤー
3.ベトナムでのオフショア開発のメリット
では、ベトナムでオフショア開発を行うメリットを、さらにくわしく掘り下げてみましょう。
それは主に、以下の6点が挙げられます。
・技術と費用のバランスがとれている
・優秀なIT人材が豊富
・法人所得税減免などの制度的支援が受けられる
・日本人との相性が良い
・時差が少ない
・カントリーリスクが低い
それぞれ説明しましょう。
3-1.技術と費用のバランスがとれている
今でこそベトナムは日本のオフショア開発のシェア1位ですが、そもそも以前はそのポジションは中国のものでした。
が、中国国内のIT産業が成熟し、自国発信での開発が増えてくると、技術力の向上に伴って人件費や開発費用も上昇しました。
そのため、オフショア開発の旨みであるコストメリットがなくなってしまったのです。
その点いまのベトナムは、技術力とコストがいいバランスを保っています。
開発を委託するには必要十分な技術がありながら、費用は日本国内で開発するよりかなり抑えられます。
具体的な費用目安は、「5.ベトナムでのオフショア開発の費用目安」でくわしく解説しますので、そちらを参照してください。
いずれにしろ、「高い技術を持った国に開発を委託したい」「でも費用は抑えたい」というふたつの相反する希望をバランスよくかなえられるのがベトナムなのです。
3-2.優秀なIT人材が豊富
前述したように、ベトナムのエンジニア人口は40万人、さらに毎年5万人がIT系教育機関を卒業してこれに加わっています。
小学校からSTEM教育、IT教育を受けているため、高いITリテラシーを持っています。
エンジニアの職種では、もっとも多いのがバックエンドエンジニアです。
次にフルスタックエンジニア(マルチエンジニア)、フロントエンドエンジニアと続きます。
日本では、顧客向けのSEやプログラマーがもっとも多いのに対して、ベトナムには高度なスキルと知識を備えた人材が多いことがわかるでしょう。
また、androidアプリ開発、iOSアプリ開発ができる人材も、それぞれエンジニア全体の2割前後いるため、スマホアプリ開発にも強みを発揮しています。
3-3.法人所得税減免などの制度的支援が受けられる
ベトナムは、国を挙げてIT人材の育成に取り組んでいますが、同時にIT産業の振興も図っていて、国外企業のベトナム進出に対しても支援策を用意しています。
中でもオフショア開発を委託する企業にとって大きなメリットがあるのは、法人所得税の減免です。
外資企業がIT部門で投資プロジェクトを行う場合、最初の4年間は法人所得税を全額免除し、その後も9年間にわたって税額50%の減額が受けられるのです。
くわしくは、JETRO「ベトナム 外資に関する奨励」ページなどを参照して、該当する企業はぜひ利用しましょう。
3-4.日本人との相性が良い
また、ベトナム人の国民性も、日本企業にとっては利点になります。
一般的にベトナム人は勤勉で、細かい作業にも厭わず取り組むと言われています。
そのため、日本人との親和性が高く、親日家も多いようです。
このことが、一緒に仕事をする際のコミュニケーションの取りやすさにつながって、協業を成功に導くでしょう。
ちなみに、これまでベトナムでは日本語はあまり通じにくいとされてきましたが、近年では日本語学習がさかんになっています。
独立行政法人 国際交流基金による「2018年度海外日本語教育機関調査結果」で、国別の日本語学習者数を見てみましょう。
【2018年 各国・地域の日本語学習者数】
出典:独立行政法人 国際交流基金による「2018年度海外日本語教育機関調査結果」
国別の学習者数では、ベトナムはアメリカや台湾をおさえて6位にランクインしています。
さらに目を引くのは、その増減率です。
2015年から2018年までのわずか3年間で、約1.7倍に増えています。
エンジニアの中にも日本語を話せる人が増えていると言いますので、今後ますます仕事を依頼しやすい環境が整うでしょう。
3-5.時差が少ない
オフショア開発を委託する際に、見落とせないのが時差です。
あまり時差が開きすぎていると、急ぎで連絡を取り合いたいときに先方が夜中だった、といったことも起こります。
コロナ禍の現在では、先方の国に行くことは避けて、リモートでの打ち合わせが増えていますが、その時間調整も難しくなるでしょう。
その点ベトナムは、日本との時差が2時間です。
その程度でしたら、どちらも就業時間中にリモートミーティングができますし、緊急時にも連絡が取りやすいはずです。
コミュニケーションでのストレスを感じにくいのは、大きなメリットだと言えます。
3-6.カントリーリスクが低い
もうひとつ、オフショア開発先を決める際に見落としがちなのが、カントリーリスクです。
政治や経済、あるいは地政学的な事情で何らかの不安要素がある国は、できれば避けるべきでしょう。
たとえば、内戦や紛争が起きる恐れがある国や、経済危機に陥っている国などであれば、有事の際には開発が止まってしまいます。
あるいは、反日的な国の場合、反日デモや不買運動などが盛り上がると、日本企業が攻撃されるリスクもあります。
ベトナムの場合はこのようなリスクが低く、政治的にも経済的にも安定しているのが強みです。
外務省の「海外安全情報」でも危険情報はありません。(2022年3月現在)
4.ベトナムでのオフショア開発のデメリット
一方で、ベトナムでのオフショア開発にはデメリットもゼロではありません。
・日本とのオフショア開発の歴史が浅い
・東南アジアでは費用が比較的高くなりつつある
どういうことなのか、説明していきましょう。
4-1.日本とのオフショア開発の歴史が浅い
前述したように、オフショア開発の初期には、日本が主に委託する先は中国でした。
その始まりは、実に1980年代までさかのぼるといいます。
その間に、多くの開発案件を手掛け、日本とのオフショア開発経験を積み重ねてきました。
そのため現在でも中国の企業やエンジニアは、日本との開発に慣れていて、開発過程での行き違いやトラブルなどが少なくスムーズに進められると言われています。
一方、日本がベトナムに開発委託をするようになったのは、2006年ごろからのようです。
オフショア開発全体の歴史から見ればまだそのつながりは浅いのです。
日本との間でのノウハウの共有が不十分な企業もあるため、齟齬が生じないよう、開発プロセスで細かい確認が必要になるでしょう。
4-2.東南アジアでは費用が比較的高くなりつつある
オフショア開発を東南アジア諸国に委託するメリットは、主に人件費の安さにありました。
ベトナムのその例に漏れません。
が、「2-1.特徴」で触れたように、ベトナムのオフショア開発費用は、年々上昇しています。
エンジニアの給与も、2019年の上半期だけで15~18%も上昇したというデータもあります。
今後は、以前ほどのコストメリットが感じられなくなりそうです。
もしコストを重視してベトナムに委託するなら、見積もりをとって納得いく費用であるか慎重に確認しましょう。
あるいは視点を変えて、「コストは標準的でも、開発の “質” でベトナムを選ぶ」という考え方も必要かもしれません。
5.ベトナムでのオフショア開発の費用目安
前章で、「ベトナムでの開発費用が上昇している」と述べました。
では、実際の費用はどの程度でしょうか?
「2-2.他国との比較」の表に記載したように、ベトナムのエンジニアの人月単価は25万~40万円程度です。
他国と比較してみると、以下のようになります。
国 | 人月単価の相場 |
ベトナム | 25万~40万円 |
インド | 30万~60万円 |
中国 | 35万~55万円 |
タイ | 27万~37万円 |
インドネシア | 24万~32万円 |
フィリピン | 21万~30万円 |
ただ、スキルや職種によっても人月単価は変わってきます。
そこで参考までに、ベトナムのエンジニアの職種別の「月給」の目安を挙げておきましょう。
「人月単価」のデータではありませんが、参考にできるかと思います。
・テクニカルディレクター/エンジニアリングマネージャー:約4,000ドル
・AIエンジニア:約2,200ドル
・クラウドアーキテクト:約2,000ドル
・ブリッジSE:約2,000ドル
・プロジェクトマネージャー:約1,800ドル
・サイバーセキュリティエンジニア:約1,700ドル
・ビッグデータエンジニア:約1,300ドル
・プロダクトマネージャー:約1,100ドル
・UX/UIデザイナー:約950ドル など
6.ベトナムにオフショア開発を委託する手順
ここまで解説したメリット・デメリットや費用などを考慮した上で、「やはりベトナムに委託したい」と考えた方も多いでしょう。
ではその場合、どのように進めればいいのでしょうか?
その一般的な手順を説明します。
6-1.オフショア会社を選ぶ
まず、オフショア開発を請け負ってくれるベトナムの企業を選びます。
日本からの委託に特化して、日本語でやりとりできる業者もありますし、「〇〇分野の開発が得意」と謳っているところもあります。
実績や得意分野を確認して、自社の案件にマッチする企業を探しましょう。
できれば最初から1社に絞り込まず、候補を数社挙げて検討しながら進めていくのがいいでしょう。
6-2.希望要件・仕様を相談する
委託先の候補が上がったら、まずは相談をします。
企画、プロジェクトの詳細、希望する要件や仕様を担当者に伝えて、可能かどうか確認しましょう。
その際に、開発内容など絶対に外部に漏洩させたくないことを伝えなければならない場合は、この時点で「秘密保持契約書」を交わしておくのがおすすめです。
6-3.契約方式・開発方式を決める
こちらの希望通りの対応が可能だとなったら、次に契約方式と開発方式を決定します。
以下のいずれか、案件に適したものを選びましょう。
【契約方式】
ラボ型契約 | 専属のエンジニアチームを一定期間にわたって社外に確保し、開発を行う |
請負契約 | 案件1件に対して契約を結び、「決められた納期までに完成品を納品する」ことを約束する |
【開発方式】
ウォーターフォール型 | 最初に要件定義や仕様を決め込んで開発を進め、すべて完成してからリリースする |
アジャイル型 | 要件や仕様はアバウトなままで開発をスタートし、短期間で設計→リリース→テストを繰り返しながら、改修、改善を進める |
6-4.見積もり
ここまで決まったら、見積もりを出してもらいます。
それを確認して、合意できれば契約に進みますが、問題や疑問があれば担当者に伝えて調整しましょう。
数社に並行して相談している場合は、相見積もりをとって比較すると、より適切な判断ができるでしょう。
6-5.契約・開発スタート
見積もりに合意できれば、いよいよ契約です。
契約書を作成・締結し、それを受けてベトナムでの開発がスタートします。
7.まとめ
いかがでしたか?
ベトナムのオフショア開発に関してよく理解できたことでしょう。
では最後にもう一度、要点をまとめましょう。
◎ベトナムでのオフショア開発のメリットは、
・技術と費用のバランスがとれている
・優秀なIT人材が豊富
・法人所得税減免などの制度的支援が受けられる
・日本人との相性が良い
・時差が少ない
・カントリーリスクが低い
◎ベトナムでのオフショア開発のデメリットは、
・日本とのオフショア開発の歴史が浅い
・東南アジアでは費用が比較的高くなりつつある
◎ベトナムでのオフショア開発の人月単価は「25万~40万円」
これを踏まえて、あなたの会社がベトナムでオフショア開発を成功させられるよう願っています。